相続開始前の贈与契約が相続開始後に履行された場合、受贈者に対する債務として債務控除できるか。

                               
 父は平成29年3月1日に、私に1,000万円の預金を贈与するという約束をし、父と私とは贈与契約書を交わした。父はその後、3月15日に急死し相続が開始した。私は1,000万円の預金を相続すると同時に、贈与契約に基づいて3月30日に父の預金を名義変更して自分名義の預金とした。
 この場合、相続開始時点で父が私に対して負っていた1,000万円の債務について、相続税の債務控除ができるか。

                               
                            相続税の債務控除ができる
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1.贈与契約と債務控除
 相続税の課税価格は、相続又は遺贈により取得した財産の価額から、被相続人の債務及び葬式費用を控除して純資産価額を算定し、これに被相続人から相続開始前3年以内に贈与により取得した財産の価額を加算して計算する。
 債務控除の対象になるものは、租税公課をはじめ種々あるが、贈与を履行する前に被相続人について相続が開始した場合の贈与の履行の義務も含まれる(相法第13条A四)。受贈者が相続人であっても債務控除の対象になることに変わりはない。

2.確実な債務
 債務控除の対象となる被相続人の債務は、確実と認められるものに限られる(相法第14条@)。
 ところで、質問では相続開始時点(3月15日)では贈与契約はなされていたものの贈与自体は履行されていないが、書面による契約書があることから、
相続開始時点において確実な債務が存在していると考えられる。

3.贈与財産の加算
 贈与財産の取得時期は、書面によるものについてはその契約の効力が発生した時(基通1の3・1の4共−8)であるから、贈与契約を交わした3月1日において贈与財産が取得されていたことになる。したがって、贈与により取得した1,000万円は、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産として
相続税の課税価格に加算する。

4.相続税申告書の記載
 贈与の履行の債務は、通常は受贈者である相続人が相続する。そうすると、相続人は自分に対する債務を自分が相続することになり分かり難くなる。
@ 相続開始時点では贈与の債務は履行されていないから、相続税の申告書には預金1,000万円(第11表に記載)と贈
 与の履行の債務1,000万円(第13表に記載)とが両建てされる。預金と債務とは同額であるから相殺されて純資産価
 額に影響を及ぼさない(相続開始前3年以内の贈与財産の加算により、課税価格は1,000万円増加する)。
A 遺産分割が確定すると1,000万円の預金は相続人の名義になるから、この段階では相続人は預金1,000万円と自
 分に対する債務1,000万円とを有することになる。
B さらに贈与の履行として、相続人は自分名義になった預金1,000万円をもって、自分に対する債務1,000万円を弁済
 する。したがって、実際はAの段階で預金の名義を被相続人から相続人に変更すれば足り、それ以外の特別な処理は
 要しない。


 
上記の記述は、2017年7月12日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
                                                                   2017.7.12

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