オーナー一族が100%株式を所有している非上場の会社だが、この度オーナーの長男に第三者割当により新株を引き受けさせ増資をすることにした。身内による引き受けなので有利発行とするが、この場合の課税関係はどうなるのか。
1.第三者割当増資
第三者割当増資とは、既存の株主に限定しない特定の第三者に新株引受権を与えて株式を引き受けさせる形態の増資をいう。非上場会社の場合は、縁故者による第三者割当増資が一般的であり、引受人にとって有利な、時価より低い価額で新株を発行する有利発行が行われることが多い。
2.税務上の取り扱い
第三者割当増資であっても時価により増資が行われる場合は、1株当たりの払込価額と増資後の時価とは理論的に同額であるから課税はされない。しかし、有利発行により増資が行われる場合は、新株を引き受けた者の区分により所得税・法人税・贈与税が課される。質問のように、新株を引き受けた者が同族会社の株主の親族である場合は贈与税が課税される(参考:相基通9-4)。
① 時価で新株を引き受けた場合の計算例
仮に第三者割当による新株発行が時価で行われたとすると、既存の株主が有する株式の価値と新株主が有する株式の価値の間に差額は生じないから、贈与税等が課税されることはない。
下記の例では、既存株主A・Bが有する株式の時価を1株当り100円として、Cが1株当り100円の時価発行により新株を引き受けたとする。この場合は、増資前の1株当りの時価と増資後の1株当りの時価は共に100円で異動はない。したがって、時価発行により増資が行われた場合は、第三者割当増資であっても贈与税等の課税関係は生じない。
<増資前>
株主
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株数
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1株当り価額
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総額
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既存株主 A
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500株
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時価 100円
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時価総額 50,000円
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既存株主 B
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300株
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時価 100円
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時価総額 30,000円
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合計
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1,000株
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時価 100円
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時価総額 80,000円
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<増資後>
株主
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株数
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1株当り価額
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総額
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既存株主 A
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500株
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時価 100円
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時価総額 50,000円
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既存株主 B
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300株
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時価 100円
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時価総額 30,000円
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新株主 C
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200株
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払込価額100円 |
払込総額 20,000円
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合計
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1,000株
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時価 100円
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時価総額 100,000円
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① 有利発行で新株を引き受けた場合の計算例
これに対して有利発行により増資が行われた場合は、既存株主から新株主へ経済的価値が移転する、即ち既存株主が損をして新株主が得をすることになるため、新株主に贈与税等が課税される。
下記の例では、既存株主A・Bが有する株式の時価を1株当り100円として、Cが1株当り50円の有利発行により新株を引き受けたとする。有利発行によって、増資後の1株あたりの時価は90円になるが、Cは1株当り50円の払い込みによって時価90円の株式を取得したことになるから、CはA・Bから1株当たり40円(90円-50円)の贈与を受けたことになる。
(増資後の時価90円-払込価額50円)×引受け株数200株=8,000円 ← 贈与税が課税される
<増資前>
株主
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株数
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1株当り価額
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総額
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既存株主 A
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500株
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時価 100円
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時価総額 50,000円
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既存株主 B
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300株
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時価 100円
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時価総額 30,000円
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合計
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1,000株
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時価 100円
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時価総額 80,000円
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<増資後>
株主
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株数
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1株当り価額
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総額
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既存株主 A
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500株
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時価 100円
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時価総額 50,000円
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既存株主 B
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300株
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時価 100円
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時価総額 30,000円
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新株主 C
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200株
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払込価額 50円 |
払込総額 10,000円
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合計
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1,000株
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時価 90円
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時価総額 90,000円
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3.時価の算定
非上場会社の株式は客観的な市場価格がないため時価の算定が難しい。通常は財産評価基本通達178~189-7の例により算定する。
質問の事例とは異なるが、株主区分によっては時価を特例的評価方法(配当還元方式)により算定できることがあり、この場合は、増資の前と後とで算定された時価に異動がないから課税はされない。
4.既存株主に対する課税
質問の場合は、既存株主はその有する株式の経済的価値が減少したのであるから、既存株主に課税が発生することはない。仮に有利発行により新株を引き受けた者が法人であっても、法人に対する株式そのものの贈与や低額譲渡ではないから時価により譲渡したとみなされて所得税が課税されることもない。
5.課税関係のまとめ
① 同族会社の株主の親族等が新株を引き受ける場合
同族会社の株主の親族等が有利発行により新株を引き受けた場合は、贈与税が課税される。
② 発行法人の役員や従業員が新株を引き受ける場合
発行法人の役員や従業員等が有利発行により新株を引き受けた場合は、給与所得・退職所得として所得税が課税される。
③ 上記以外の個人が新株を引き受ける場合
上記①、②以外の個人が有利発行により新株を引き受けた場合は、一時所得として所得税が課税される。
④ 法人が新株を引き受ける場合
法人が有利発行により新株を引き受けた場合は、時価と払込価額との差額が時価の概ね10%以上であれば発行価額が社会通念上相当と認められる価額を下回っているとして、受贈益に対して法人税が課税される(参考:法令119①四・法基通2-3-7)。
新株を引き受ける者
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課税関係
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個人
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① 同族会社の株主の親族等
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贈与税
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② 発行法人の役員・従業員等
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所得税
(給与所得・退職所得)
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③ 上記以外の個人
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所得税
(一時所得)
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④ 法人
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* 上記「新株を引き受ける者」の①と②は重なることがあるが、新株の発行目的により
実態に即して課税関係を判断する必要がある。 |
6.税務調査
新株を有利発行すると上記のような課税関係が発生するが、逆に高額発行をした場合も課税関係が生じることがある。しかしいずれの場合でもこのような課税関係を意識せずに有利発行や高額発行が行われることが多い。
新株発行が行われると法人税申告書別表二に異動が生じるが、通常の法人税の税務調査では上記のような課税関係について特別な指摘を受けないこともある。
上記の記述は、2016年5月20日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2015.5.20
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