−被害のいきさつ−
A氏は、平成20年4月、長男を名乗る者から電話で「勤務先の金を流用したので、穴埋めのための金が必要だ。」とうそを告げられ、郵便局から相手方指定の銀行口座へ240万円を振込み送金しました。さらに、同年4月8日と4月10日にも同じ趣旨のうそを告げられ、再び260万円と320万円を振込み送金しましたので、A氏は総額で820万円の現金を騙し取られたことになります。
その後、A氏は電話の相手が長男ではないことを知り、平成20年4月11日に警察署に被害届を提出しました。
A氏は、騙し取られた金額の損失が、所得税法第72条第1項(雑損控除)にある「災害又は盗難若しくは横領」のいずれかに当たると主張しました。
<判断の根拠>
審判所は、「災害」、「盗難」及び「横領」は、いずれも個別の概念であるとして、それぞれについて、A氏の主張を個別に否定しています。
@ 災害
A氏の振込み送金は、A氏の意思に基づいてなされたものだから、この損失は「災害」による損失には当たらない。
A 盗難
「盗難」とは、「財物の占有者の意思に反して第三者が財物を占有すること」であるが、この損失は、振込み送金がA氏本人の意思に基づいてなされているから、「盗難」による損失には当たらない。
B 横領
「横領」とは、「他人の物の占有者が委託の任務にそむいて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をすること」であるが、振り込め詐欺の犯人はそもそもA氏の物の占有者ではないから、この損失は「横領」による損失には当たらない。