当社は、創業者である社長の退職に際して、株主総会で1億円の退職金を支給する旨の決議をした。退職金が多額であるので、損金経理をすると純利益金額が減少し銀行対策上好ましくない。そこで、これを損金経理せず、剰余金の処分として経理し、純利益金額に影響させないことにしたい。この場合、退職金は税務上損金と認められるか。
1.「剰余金の処分+損金算入」 は可能
平成18年5月に施行された会社法では、取締役の報酬等(役員退職給与を含む)の金額や計算方法は、株主総会の決議等で定められることになっているが、役員退与給与は会社の費用として処理する方法の外、剰余金の処分によることも認められている。
これに伴い、税務においても役員退職給与を費用処理せず、剰余金の処分として処理をすることが可能になった。平成18年の税制改正前は、役員退職給与を税務上損金とするためには、会社の経理において損金経理することが要件とされていた。しかし、改正によりこの損金経理要件が廃止されたため、現在では損金経理しなくても株主総会の決議等で役員退職金の額が具体的に確定すれば、その決議等がされた日の属する事業年度において、その役員退職給与の額を税務上損金の額に算入することが認められている(基通9−2−28)。
したがって、役員退職給与を損金経理せず剰余金の処分とした場合であっても、法人税申告書別表4で減算することが可能である。
<会計上の仕訳> 繰越利益剰余金 / 現金・預金
<法人税別表4> 役員退職給与減算(社外流出) |
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2.退職給与引当金を取り崩して支給する場合
役員退職給与を損金経理によらないで処理する方法としては、上記1の剰余金の処分の他に引当金を直接取崩す方法がある。
@ 平成18年の税制改正前の経理処理
役員退職給与規定を有する法人は、有税で役員退職給与引当金を計上していることが多い。この場合、平成18年の 税制改正前は、退職給与を支給する際、次のように役員退職給与引当金を取り崩して収益に計上する経理処理が行われていた。
役員退職給与引当金 / 役員退職給与引当金取崩額(収益)
役員退職金(費用) / 現金・預金 |
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A 平成18年の税制改正後の経理処理
平成18年の税制改正後は、毎期引当ててきた役員退職給与引当金を取り崩して支給する場合、損金経理によらず、引当金を直接取り崩す経理処理ができることになった。
3.総括
平成18年の会社法の制定で、役員退職給与も役員報酬や役員賞与と同様に役員の職務執行の対価とされたことから、税法においては、損金経理以外の方法によった場合であっても、税務上損金性が認められることになった。
したがって、役員退職給与を仮払金として経理しようと、引当金を直接取崩して経理しようと、株主総会の決議さえあれば経理方法の如何を問わず税務上損金性を認めるのであり、役員退職給与を剰余金の処分として処理した場合も、広く「損金経理以外の方法」に含まれ、申告調整によって損金算入が可能になる。
上記の記述は、2015年6月3日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2015.6.3 |