3月決算法人だが、3月31日に、4月1日から1年分の事務所家賃を前払いしたい。「短期の前払費用」として損金の額に算入できるか。
1.短期の前払費用の損金算入
「短期の前払費用の損金算入」とは、1年以内の短期の前払費用について、前払費用として資産計上をせずに、その支払った時点で損金算入を認めるものである(基通2−2−14)。
このような短期の前払費用の処理は、企業会計上の「重要性の原則」が税務においても同様に認められたものである。
2.「短期の前払費用」の範囲
ここに「短期の前払費用」とは、「その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るもの」に限られる。
したがって、仮に3月決算法人が3月31日に支払を行ったとすると、「支払った日から1年以内」とは3月31日から1年以内となる。この場合支払先との契約において4月1日から1年分を支払う、とされている場合は、通達で認める短期の前払費用には該当せず、支払った金額は損金の額に算入されない。
しかし、通達の趣旨は、重要性の原則を税務についても認めることにあるから、たかだか1日のズレで損金算入を認めないというのは理不尽に過ぎる。短期の前払費用を損金の額に算入したことが作為的なものでない限り、通達の趣旨に基づき、損金算入の正当性を主張することは可能である。
3.毎期継続的に適用しなければならない
現実には「短期の前払費用の損金算入」の規定は、重要性の原則から離れて節税目的の損金対策として利用されることがある。したがって、この規定の適用に当っては、「その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入している」ことが条件とされる。即ち、事業年度によって場当たり的にこの規定を適用したりしなかったりすることは認められていない。
4.まとめて2年分を支払った場合はどうなるか
では、2年以上の期間の前払費用を支払った場合はどうであろうか。通達では「前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において」その支払った額の損金算入を認めている。したがって2年分の前払費用を支払った場合は、1年分のみ損金算入が認められるのではなく、2年分全額の損金算入が認められないことになる。
5.短期の前払費用を未払い計上した場合
短期の前払費用の損金算入の規定は、「1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において」損金算入を認めるものであるから、その事業年において実際に支払われたことが適用の要件である。したがって、事業年度中に支払が行われていないものは、未払計上しても損金の額には算入されない。
6.どのような費用が短期の前払費用と認められるのか
短期の前払費用の損金算入が認められる代表的な費目は、「地代家賃」、「保険料」、「支払利息」などで、時の経過とともに役務提供が発生するものである。
他方、類似した支出ではあるが、雑誌購読料などは、物品の購入費用であって役務提供とは言えない。また、税理士報酬は役務提供の対価ではあるが、時の経過とともに役務が発生するものではなく、個別の事案に対する相談等のための支出である。これらは、企業会計では「前払金」であって「前払費用」には該当しない。したがって、これらについては短期の前払費用の損金算入の規定の適用はない。
尚、支払利息については、原則的には短期の前払費用として損金算入が認められるが、その借入金を特定の資産に運用している場合、即ち借入金が運用資産とひも付きの関係にある場合には、その支払利息は運用資産から生じる収益との対応関係を優先する必要があるため、短期の前払費用として無条件の損金算入は認められない。
上記の記述は、2015年9月24日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
2015.9.24 |