不動産業を営む法人だが、棚卸資産である不動産を固定資産に変更したいか。問題はあるか。

                               
 不動産業を営む法人だが、前期に収益物件である土地・建物(アパート)を仕入れて棚卸資産としたが、利回りの良い物件なので、当期に棚卸資産から固定資産に振り替えて長期間保有することにしたい。税務上問題はあるか。

                               
 棚卸資産から固定資産に振り替えること自体には税務上の制限はないが、振り替えにより税額が変わることがあるため、振り替えは合理的な理由による必要がある。
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1.土地・建物の保有目的の変更
 通常の製造業や卸売業等であれば土地・建物は固定資産であり他に選択肢はないが、不動産業の場合は、土地・建物等の不動産を取得するについて、短期的な販売を目的として棚卸資産とするか、または長期的な利回りを重視してこれを固定資産とするかが問題となる。当初は販売目的で取得したが、高利回りの物件であるため長期保有の固定資産に振り替える場合や、逆に当初は固定資産として家賃収入を得てきたが、その後の時価の上昇により棚卸資産に振り替えて短期で売却する場合などが考えられる。

2.税務上の問題
 棚卸資産を固定資産に振り替えても固定資産を棚卸資産に振り替えても、振り替え自体に税務上の制限はない。即ち、固定資産と棚卸資産との相互間の振替自体には税務上の制限はないのであるが、次のように振り替えにより法人税等について有利・不利が発生することがある。
  固定資産にした場合  棚卸資産にした場合
 @ 減価償却の可否    減価償却できる     減価償却できない
 A 低価法の選択     低価法は選択できない      低価法を選択できる 
 @ 土地については固定資産であろうと棚卸資産であろうと減価償却は認められないが、建物については、固定資産
  とした場合は減価償却が認められ、棚卸資産とした場合には認められない。

   しかし、棚卸資産といっても、取得した当初から賃借人がいて家賃賃収入が発生しており、諸般の事情により販売まで
  長期を要するような場合には、費用収益対応の原則に照らして減価償却を行うことが合理的であるようにも思える。
 A 一定の手続きの下に棚卸資産については低価法の適用が認められているが、固定資産については認められ
  ていない。
低価法とは、期末棚卸資産を種類等の異なるごとに区分し、種類等の同じものについて、原価法による評
  価額と期末における時価とのいずれか低い価額をもって評価額とする方法である。
   低価法には、(イ)洗い替え方式と(ロ)切り放し方式とがある。(イ)洗い替え方式は、実際の取得価額を翌期首の取
  得価額をとする方式であり、当期に評価損失を計上しても、来期には同額を戻し入れて再度評価損を計算しなおす方
  法である。対して(ロ)切り放し方式は、当期末の評価額を翌期首の取得価額とする方法であり、一旦計上された評価
  損は再度戻し入れられることはない。
   (ロ)切り放し方式の方が、(イ)洗い替え方式よりも税務上有利であるが、現在では(イ)洗い替え方式にみが認めら
  れている。

 したがって、質問のように、前期に棚卸資産として取得した物件を当期に固定資産に振り替えた場合は、振り替えた時点から減価償却を行うことができるため棚卸資産としておくよりも早期に費用化することができる。反面、期末においてその評価において低価法を適用することはできない。

  *減損損失について
   減損処理により減損損失を計上した場合は、会計上はともかく、税務上は減損損失も評価損と同じ範疇に属する。し
  たがって、固定資産について災害により著しい損傷を受けた等の税務上の要件を満たさなければ、減損損失として経
  理された金額については損金の額に算入されない。

 このように、固定資産と棚卸資産との相互間の振替により法人の所得が変わることがあるが、減価償却にしても低価法の問題にしても、取得から売却等に至る長期の視点でみれば損得は生じないことになる。
 しかし、振り替えによって期間損益に影響が出る以上、振り替えを行うについては合理的な理由が必要であり、税務調査に備えて議事録等を整備しておく必要がある。

2.貸借対照表・損益計算書上の表示の問題
 不動産に限らないが、固定資産を棚卸資産に振り替えた場合、棚卸資産回転率は低くなり、流動比率が高くなる。
 また棚卸資産として販売すれば販売による損益は営業損益に含まれるが、固定資産として売却すれば特別損益となる。
 したがって、営業損失が発生している事業年度において、本来は固定資産であるものを棚卸資産に振り替えて売却し、売
却益を出して営業損益をプラスにするなどのことが行われるが、主に融資の条件を良くしようとする作為的な処理であり好ましいことではない。

 上記の記述は、2016年1月10日現在の法令・通達等に基づいています。その後の税制改正や個別事情等により、異なる課税関係が生じる場合がありますのでご注意ください。
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